27年間支え続けたアップルを去るジョニー・アイヴと彼が愛する腕時計
ジョニー・アイヴ(Jony Ive)が2019年を以てCDO(最高デザイン責任者)を務めるアップルを去ることを決断しました。
1992年にアップルに入社し、後年その真髄がiPhoneに受け継がれたモバイル端末Newtonを手掛け、1998年の衝撃的なiMacのデザインを世に問い、アップルのデザインの先頭を指揮してきたこのエセックス訛りの英国人は、雇用の流動性のとりわけ高いアップルにあって、実に27年間もの長きにわたり僕らに驚きを与えてきました。
僕はアイヴ氏が去ることよりも、むしろ長年にわたる献身に驚きを隠せません。
デザイナーという線の細そうな印象を見事に裏切るジョンブル的風貌を持つアイヴ氏はアストン・マーチン、ベントレー、ロールス・ロイス、レンジローバーと英国を代表するスーパーカーを所有していることから、コレクター的資質(収集性)を垣間見せます。
Apple Watchは誰の手柄として横取りされる事もなく、彼自身の功績として喧伝されてきました。その彼がApple Watchを身に着けることはごく自然なことですが、同時に機械式時計への偏愛も持ち合わせている事でしょう。そうでなければ、Apple Watchが僕のような機械式時計愛好家を惹きつけることはなかったでしょうから。つまり、スイスの高級時計は皮肉にもApple Watchの前駆体(Pre-Cursor)となっているのです。
その好奇心に見事に切り込んでいったのが、HODINKEE主宰のベン・クレイマー氏です。彼はアイヴ氏の初めての機械式時計と現在所有している機械式時計について2017年にインタビューしています。インタビューに際し、アイヴ氏はホワイトセラミックケースのApple Watch Series 3を身に着けていました。
ジョニー・アイヴの初めての機械式時計は、1992年に香港で入手したオメガ スピードマスター プロフェッショナルです。これはいわば通過儀礼みたいなものです。そして、現在彼が時折身に付けるのは、パテック・フィリップ ノーチラス 5711/1Aだということです。
ノーチラス5711/1Aは正規ルートで入手するのは極めて困難とされる腕時計のひとつです。それを手にしているということは、彼は愛好家であると同時に、自身のマーケット感覚を意識して腕時計を選んでいるのかもしれません。そこに彼のデザイナーとしてある種成功のヒントが隠されているのではないでしょうか。
クレイマー氏とのインタビューで特に目を引いたのは、Apple Watchとスティーブ・ジョブズとの関わりを全否定したことです。ジョブズが時計の話をしたことすら「聞いたこともない」と答えています。そのジョブズ氏はピアジェ アルティプラノを所有していることが漏れ伝わっていることから(公の場で身に着けたことはないにせよ)、腕時計への関心とApple Watch開発プロジェクトへの関与が皆無であったことは考えにくいのですが、アイヴ氏はApple Watchの毀誉褒貶も全て独占するつもりなのでしょう。
ノーマン・フォスターが設計したApple Parkに移転して以降、職場に顔を見せることも減らしてきたというアイヴ氏。「疲労」もひとつの要因とされる退任ですが、アイディアを横取りされる日陰者ではなく、フロントマンとしての成功の味を覚えたこともアップルを離れる動機のひとつでしょう。今後はデザイン会社を設立し、盟友マーク・ニューソン氏も参加するという噂まであります。
それが高級時計を作る会社であるとしたら、僕にとっては驚愕のニュースとなります。
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