マーロン・ブランドが『地獄の黙示録』で着用した奇妙なロレックス GMT-マスター
1979年発表の戦争映画『地獄の黙示録(原題:Apocalypse Now)』は僕が20代初めに観て非常に衝撃を受けた作品です。映画の時代背景はベトナム戦争末期ですが、僕が鑑賞した当時は第二次イラク戦争開始から2、3年で妙なシンクロを覚えた記憶があります。
大雑把な粗筋は、厭戦に転向しカンボジアに潜伏した元グリーンベレー将校であるカーツ大佐を空軍将校であるウィラード大尉が暗殺に向かう道中記ですが、別世界にトリップしたような映像が多用されるなど、戦争の狂気がよく表現されているのです(実際のところ、撮影が迷走したという説もあり)。
フランシス・フォード・コッポラ監督は「ゴッド・ファーザーPart1」でドン・コルリオーネを演じたマーロン・ブランドをカーツ大佐役に起用しました。この有名すぎるマフィア映画からはもうひとり名優ロバート・デュバルがキルゴア中佐役として登場します。リヒャルト・ワーグナーのワルキューレを大音量で流しながらジャングルにナパーム弾を投下した後に発するこの台詞はこの映画のハイライトと呼べるでしょう。
さて、そのカーツ大佐が劇中着用した腕時計がオークションに放出されるようです。
紛れもなく1972年製のGMT-MASTER Ref.1675なのですが、何か奇妙な違和感を感じませんか?
そう、このGMT-MASTERにはベゼルがないのです。なぜベゼルが取り除かれているかは謎ですが、そのこと自体がこの時計を唯一無二のものとしているならば、ベゼルを取り除いたことは計算の上なのでしょうか?
『地獄の黙示録』の登場人物達は主人公のウィラード大尉を含め、どこか頭のネジが抜けたようなのです。つまり、重要なパーツが欠損したパーソナリティを表現するためにベゼルを取り除いたとしたら、実に計算し尽くされた演出と言えるでしょう。
残念ながら、ストラップは裏面がラバーのレザード革に交換されています。しかし、オイスターケースにリザードのブレスレットの組み合わせは白洲次郎のRef.6085と彷彿させ、これまた奇妙な既視感を覚えるのです。
マーロン・ブランドはもう一本同じRef.1675を所有していましたが、こちらは1961年に入手され、ダイアルが交換済みです。こちらは養女のペトラ・ブランド・フィッシャーによって今後も手元に置かれるようです。
裏蓋には自身の手による名入れ(M.Brando)が刻まれたコレクターアイテムの中のコレクターアイテムである、1972年製GMT-マスターRef.1675は2019年12月にニューヨークの時計オークションPhilips’で競りに出されます。これは見ものですね。
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