K.Iwahashiが語るラグジュアリー論







細い腕のためのシンデレラウォッチ? オーデマ ピゲ ロイヤルオーク 37mm 15450ST

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'79年生まれ。1浪2留の流浪期を経て'05年に早稲田大学商学部卒業。 現在は金融業界で会社員として勤務。英文翻訳・映像翻訳の実績多数。 ラグジュアリー全般に関する考察と海外発の腕時計情報をいち早くお届けします。

計愛好家の僕にとって最大のジレンマが、腕周りが細いことだ。実測して15.5cmの腕周りは日本人男性の中でも一際細いのではないだろうか。恐らく同じジレンマを抱える、ArmouryのオーナーMark Cho(石賢正)が以前実施した腕周りと最適なケースサイズのアンケートの結果を見ても、僕の腕周りは最小グループに属していた。

腕周りが細いと必然的に男性ものの時計が大きくなり、結果として服飾の上でアンバランスに見え、装着性も損なわれる。僕が昨年入手したロレックス デイトナ116500LNもロレックスのプロフェッショナルモデルの中ではスリムなので、カジュアルな服装では実にフィットするのだが、スーツスタイルではやや大きさが目立ってしまう。僕にとって腕時計が目立ってしまうのは悪いことでは無いのだが、やはりビジネス上ちょっとと思う場面は多い。

購入までの経緯

デイトナを購入する際にラグジュアリースポーツと呼ばれるジャンルの時計をサーチしていたのだが、その時欲しかったけれど在庫が全くなかったオーデマ ピゲ ロイヤルオークの37mmケースが新品で出ていたので、意を決して在庫を押えた。

僕が選んだのはシルバーの文字盤の15450ST.OO.1256ST.01という型番。この文字盤色は2013年のモデルリリースから存在しているカラーなので、中古市場も比較的豊富だ。名古屋にも中古在庫があったので、実際に購入前に試着した。

試着ではブレスレットのコマを詰めることは叶わないので、あくまでケースを手首に置いた感覚を掴む程度なのだが、非常に好印象を持った。何よりも文字盤のシルバーの表情が豊かなところが良かった。それに、リューズのネジ込みを開放して巻き上げる感触と、6振動のロービートの悠然とした運針は実際に触れてみないと良さがわからないところだ。気になるところがあるとしたら、ローターの回転音が目立つことくらいだった。しかし、これで僕の心は決まった。

Audemars Piguet 15450ST-1

ステンレスモデルの文字盤のカラーについては、正規ブティック限定色のブルータペストリーの他2017年に登場したグレーの3色展開となっている。日本国内正規ブティック購入品については、文字盤の交換を受け付けてくれるエビデンス(シルバーからブルー)を把握しているが、最近になって受け付けてくれなくなったとも聞く。基本はNGだと認識しておいた方が良い。幸い、僕はシルバーダイヤルの良さも認めるところなので、これはこれで巡り合わせに感謝するところだ。

15450STは2012のジュネーブサロンで発表され、2012年6月の定価は1,365,000円(税込)だった。その年、復刻初代ロイヤルオークの15202STが同時発表され、そちらの定価は1,837,500円(税込)と今では信じられないほど手ごろなプライスタグであったのだ。15450STが並行市場に現れたのはその1年後で、定価より10万円ほど安く入手可能だったので高級時計市場も今ほど過熱しておらず、時計愛好家にとってはいかに良い時代だったかがわかる。なぜ、僕が入手しなかったかというと、当時は防水性能50mが頼りなく感じられたからである。

その後15450STの定価は上がり続け、しばらくは1,890,000円という、2012年の定価からは考えられないほどの価格を保っていたが、2020年1月になって突如値上げされ、1割を超えるプライスタグの上方改定が実施され、僕は定価の2,255,000円とほぼ同額で入手した。果たせるかな、この取引でデイトナ116500LNが僕の手元から去っていった。もうデイトナの相場をチェックすることも正規購入したSNS上の自慢話に内心面白くない気持ちを抱くことからも解放されることになる。それにしても、デイトナは購入額と同額で売却できてしまったので、あらためてその過熱ぶりを思い知った次第。並行輸入相場と正規販売価格の乖離が狭ければ狭いほど、精神的な安定が得られるものだ。

オーデマ・ピゲの歴史と多様性

オーデマ ピゲはスイス ジュウ渓谷のル・ブラッシュにジュール=ルイ・オーデマによって1875年に創業された。やがて、彼の時計工房が軌道に乗ると、一人の時計師を迎え入れた。その時計師の名はエドワール=オーギュスト・ピゲである。1882年に現在の「AUDEMARS PIGUET」にブランドとして発足し、オーデマが開発、ピゲが販売を担った。19世紀末にはニューヨークを含めスイス国外に販路を拡げたのはピゲの功績であり、1892年に世界で初めて腕時計用のミニッツリピーターを開発したのはオーデマの功績である。

現在においても資本の独立性を保った稀有な存在ではあるが、ジャガールクルトの株式を保有するなどリシュモングループとの距離は近い。将来の合従連衡を占うにあたり、このことは大きく影響することだろう。

Audemars Piguet Royal Oak 15450ST -1

ところで、オーデマ ピゲにはかつて日本人時計師が在籍していたのをご存知だろうか。現在はパルミジャーニ・フルリエで活躍する浜口尚大さんである。彼がAP在籍時に手掛けた作品として、ミレネリー4101が有名だ。創業者の子孫でボードメンバーでもあるオリバー・オーデマ氏は黒人の血を引いていることもあり、CEO フランソワ-アンリ・ベナミアスは元プロゴルファーの経歴からして、同社の強みはダイバーシティに富むところにこそあると僕は考えている。

ロイヤルオークはラグジュアリースポーツの先駆者としてブランド創設90年目の1972年に鬼才ジェラルド・ジェンタ(1931-2011)のデザインによって登場した。初代ロイヤルオークに与えられたのは39mmの2ピース構造のケースにジャガールクルトより提供を受けたCal.920をリファインした薄型自動巻Cal.2120を搭載していた。登場当時、ジャン-クロード・ビバー氏が若き社員としてオーデマ ピゲに籍を置いていたことは後年、彼のキャリアに大きな影響を与えたことだろうと察する。

アラン・ドロンとロイヤルオーク

ロイヤルオークを私生活、スクリーンで身に着けていたのが仏俳優のアラン・ドロン(1935〜)で、ブレスレットをルーズにゴールドのアクセサリーと重ね着けする姿を確認することができる。お洒落上級者の着けこなしである。

ドレスウォッチの特徴である薄型ケースと細い針・インデックスに、スポーツウォッチに特徴的な304Lステンレススチールのケースとブレスレットを組み合わせたのは革新的で、1976年にはパテック フィリップが同じくジェンタを招聘して作り上げたノーチラス Ref.3700/1を対抗馬としてリリースしている。

ジェラルド・ジェンタは自身のブランドを1972年に立ち上げ、ミッキーマウスのレトログラードウォッチがつとに有名であるが、こちらは商売として上手くいったとは言い難い。神は天才に二物を与えなかったのである。ジェラルド・ジェンタSAは後にブルガリに株式が売却され、今日のオクト シリーズに結実している。余談だが、僕の父がブルガリ オクト バイレトロ ジェラルド・ジェンタを購入すると言い出したのを説得して止めさせたエピソードがある。今のオクト フィニッシモはロイヤルオークに通じるスピリットが感じられるので、オススメのモデルである。

ラグジュアリースポーツか?バーサタイルウォッチか?

1970年代はクォーツショックの影響がスイスの時計産業を蝕んでいた中で、新たな風を吹き込むために開発されたといえる。現在でこそ「ラグジュアリースポーツ」と日本では呼んでいるが、ジェンタ自身はスポーツウォッチを意図したようで、ドレスウォッチ的な針の細さにしても、ジャガールクルトから供給を受けたCal.920のトルク不足を考慮したものであったということなので、当初から狙ったというわけではなさそうだ。

かつてはそれらを「ラグジュアリースポーツウォッチ」と定義したけど、あれもインフォーマルウォッチの先駆けだったのかなという気もしているんです。今、多くのブランドがその方向に進んでいると思う。ピアジェの「ポロ S」とかもそうだし、ウブロの「クラシックフュージョン」もそう。– 日経ビジネス(電子版)

クロノスの広田雅将氏 @HIROTA_Masayukiによると、ラグジュアリースポーツとは「インフォーマルウォッチ」の前駆体ではなかったかと解説されている。

翻訳者としての僕の感覚では、“バーサタイルウォッチ”「versatile:万能の;多用途の」というのが、英語圏の人々のラグジュアリースポーツの捉え方に近いのではないかと思う。実際に英語圏の時計メディアであるHodinkee.comでは、キーワード「versatile」は「luxury sport」と同じくらいの頻出度だ。

ロイヤルオークのバリエーション

さて、現行のロイヤルオークはバリエーションが豊富で、41mm径の15500ST、オリジナルと同じ39mm径の15202ST、そして37mm径の15450STが展開されている。

15500STには2019年にCODE11.59シリーズに搭載された高振動(28,800Vph)のキャリバー4302が搭載されている。15202STには超薄型自動巻Cal.2120が搭載されており、これはローターの装飾こそは凝っているものの、初代ロイヤルオークとほぼ同じ仕様である。15450STには2005年に新開発されたCal.3120が搭載されており、かつてはこのムーブメントが41mm(15400ST)、39mm(15300ST)、37mmの各サイズに搭載されていたが、2020年現在は37mmにのみ搭載されている。

3サイズ展開されているのは、ロイヤルオークのフィッティングが非常にシビアであることに尽きる。私のような細い腕に41mmを乗せると、ケースが浮いてしまう。これはブレスレットの可動域が狭いから起こることでもあるが、ロイヤルオークは縦幅が長くとられているためでもある。だから、ロイヤルオークにはフィッティングが不可欠なのである。

Audemars Piguet 15450ST-3

39mmはオリジナルの意匠を忠実受け継いでいるため非常に人気が高く、入手するには500万円ほどの資金が必要だ。加えて2針であるために、持つ人を選ぶ時計でもある。したがって、中古市場で程度の良い15300STを探すのが現実的だろう。

なお、最新作の15500STに関してはHODINKEE Japanのエディター 和田将治氏の秀逸な記事があるので参照されたい。

ロイヤルオークに特徴的な「グランド・タペストリー」ダイアルはジェンタのデザインにはなかったものだ。このタイル状の文様は目を凝らすと無数の線状が刻まれたギヨシェ彫りだということがわかる。この幾何学模様はRoland Tille(ローラン・ティーユ)に外注して得られたものだが、現在は内製化している。僕の入手したシルバータペストリーは光のあたる角度によってはホワイトダイアルにも見え、また虹色を湛えることもある。僕がシルバーダイアルを気に入っているのは、ロゴやミニッツトラックがブラックで書かれている点だ(ブルーとグレーではこの書体がホワイトとなる)。このブラック書体が全体を引き締めて見せてくれる。

ブレスレットの着用感

僕の15.5cmの細い腕周りにシンデレラのガラスの靴のようにフィットしたのは、37mmだ。外したコマは2コマでほぼジャストサイズ。1コマだとやや余裕を持つことができる。腕周りは時間帯や季節で変動するので微調整機構があるのが理想だが、それだとバックルに厚みが出てしまう。ただし、セパレート式のブレスレットのリンクバーはマイナスドライバで簡単に取り外すことができるので押しピン方式のような煩わしさはない。僕は取り外し可能なリンクを6時側に2コマ、12時側に4もしくは5コマ配置させることで手首の上でのバランスを保っている。僕は元々手の甲に近い位置で固定するよう調整してきたが、15450STはより肘に近い(高い)位置で固定するようにした。これはロイヤルオークが袖の中にすっぽり収まってくれるからできることだ。

Audemars Piguet 15450ST-4

ただ、4月に入り少し汗ばむ陽気が続くと、ややタイトさを感じるようになってきた。1コマ足すと緩すぎるし、どうしたものかと思案していたところTwitterで1.5コマと呼ばれる標準の1.5倍の長さのリンクが存在することを知った。早速、オーデマピゲ名古屋ブティックに照会したところ取寄せ可能とのことで発注した。待つこと1カ月、ゴールデンウィークの初日に入荷。コロナ禍の自粛営業の最中、店舗貸し切り状態の中コマを足してもらった。

Audemars Piguet Royal Oak 15450ST -2

すると、どうだろう!まるでビスポーク靴のような吸い付くフィット感が得られたではないか。この1.5コマのExtended Linkは24,000円(税抜)で追加購入可能だ。サイズ感に少しでも不満を抱えるユーザーには試してほしいソリューションだ。ロイヤルオークとてガマンして着ける時計ではないのだ。

Audemars Piguet Royal Oak 15450ST -2

ところで、ブレスレットの耐久性には若干疑問符も付く。僕の個体では、バックル部のスクリュー2個がいつの間にか緩んで取れてしまった。一つは気づいてすぐに取付できたものの、もう一つは紛失したままだ。オーデマピゲ名古屋ブティックにすぐに手配いただけたが、下手すると脱落事故を招く可能性もある。そもそもリンクをつなぎとめるネジも含め、非常に短く作られているので数回転で外れてしまう、構造的な問題だ。

その他、革ベルト仕様の追加購入も可能で、費用は次のとおりだ。僕はブレスレット故障時のバックアップとして、またクラシックな装いが求められるシチュエーション用に欲しいと考えているが、初期費用のハードルの高さもあり、未だに躊躇している。

アリゲーターストラップ交換費用(2020年4月調)
フォールディングバックル(ステンレススチール) 79,000円(税別)
交換用パーツ(一式) 27,000円(税別)
アリゲーターストラップ 59,000円(税別)
15450ST
サテンとポリッシュの使い分けはもはや手作業を介さなければできないほど細かい

ケースの造形は見事という他ない。鍛造の316Lステンレス全体にサテン仕上げが施されているが、エッジというエッジにポリッシュがかけられており、例えばベゼルの造形だけでも70以上の工程がある。これが、ブレスレットに至るまでこの調子なのでコストがかかる所以である。これはマシンではなく、本当に研磨職人が手仕上げで磨いているものだ。

15450ST
ベゼルとケースの間に挟み込まれたラバー

最も驚いたのは、ベゼルとケースの間にウェハースされた黒い物体Xだ。これはパッキンを兼ねたラバー製ミドルケースであり、ベゼルに打ち込まれた8つのスクリューが貫通してケース裏のビス留め連結される。この存在はオーナーになるまで知らなかった。実にクレイジーではないだろうか?

このラバーウェハースを含めると、15450STの厚みは実に9.8mmに達する。初代ロイヤルオークとその系譜の色濃い15202STの8.1mm、ノーチラスの8mmと比較すると厚いと感じるものの、スーツ着用時のタイトなシャツの中にすっぽり収まることを考えると、ブレスレットもまた薄さに貢献している要素だろう。とはいえ、15450STはヒストリカルモデル(初代)と比較して厚めで37mmと寸が詰まっているため、やや女性的な丸みを帯びている。このあたり、ロレックスのオイスターモデルのテイストに慣れ親しんでいる人には違和感なく受け入れられるだろう。

ガラスコーティング施工

もちろん傷が目立ちやすいケースとブレスレットである。これがロレックスなら気に留めないが、ガラス細工のような繊細なロイヤルオークに傷は似合わない。そこで、これまで試したことがなかったガラスコーティングをロイヤルオークに施工してみることにした。

元来、ガラスコーティングは車の塗装を保護するために開発されてきた歴史がある。国産車の塗装の鉛筆硬度は2H程度と言われているが、僕がお願いしたエックスコーポレーションのEGCコーティングは9H程度の引っ掻き耐性があるそうだ。モース硬度にして4〜5、ビッカース硬度にして最大400HV程度か。316Lステンレスのビッカース硬度は200HV程度(焼入れによっては、400HVまで上げることは可能)なので、日常の小傷程度は防ぐことが期待できる。

なお、風防やトランスパレントケースバックに使われるサファイアクリスタルはビッカース硬度が2,300HVと桁違いに傷に強い。ロレックスがベゼルの素材として使用しているセラミック合金(セラクロム)も同程度だ。ガラスコーティングは桁がひとつ足りないレベルなので、過度な期待は禁物。

時宜よろしくクリスタルガードから腕時計に特化したうクリーナー兼コーティング剤クロノアーマーが2020年3月に発売されるので、そちらは別の手持ちの時計に使用したい。

耐磁性能の展望

Cal.3120はロービート(21,600Vph)ムーブメントであることから、秒針の運針も非常にゆったりしている。両持ちテンプブリッジはロレックスのムーブメントを彷彿とさせるもので、衝撃に対する安定性を担保している。

Audemars Piguet Royal Oak 15450ST -2

スウォッチグリープはシリコン系シリシウムヒゲゼンマイ 、パテック フィリップも同じくシリコン製のSpiromaxを、磁力に対するソリューションとして展開しているが、オーデマ ピゲはこの分野においては保守的で、ヒゲゼンマイ には伝統的な鉄を多く含むニヴァロクスを採用していると思われ、磁力には伝統的な機械式時計同様、細心の注意を要する。シリコン製ヒゲゼンマイ は非磁性素材のため帯磁しないが、割れやすいことと湿度に弱いため扱いが難しく、フリースプラングテンプにしか採用できない欠点がある。ただし、平ヒゲのみで姿勢差に強いブレゲ巻き上げ式ヒゲゼンマイには使用できないのでロレックスは採用していない。

ニヴァロクス製ヒゲゼンマイを搭載した耐磁時計でもせいぜい4,800A/mが限界と言われている。これは磁気に5cmまで近づいても性能を維持できるレベル。しかし、スマートフォンやノートPC、鞄のマグネットに搭載されるネオジウム磁石は強力かつ日常に溢れており、思わぬ接近で帯磁してしまう可能性がある。

セイコーのスプロン610、ニオブを多く含むロレックスのパラクロム製ヒゲゼンマイは10,000A/mほどの耐磁性能があるとされるので、従来比で2倍程度の性能ではあるが、日常生活で帯磁してしまうこともしばしばだ。私自身、デイトジャスト41に搭載されるCal.3235が帯磁してしまい、ロレックス ブティックで磁気抜きしてもらった経験がある。

オーデマ ピゲも手を拱いているわけではない。2018年9月にスウォッチグループのニヴァロックス・ファー社と共同開発したニオブ・チタン合金のニヴァクロン(Nivachron)を発表した。この素材は48,000A/m(600ガウス)もの磁気に1cmまで近づいても性能を維持できるほどの耐磁性能を誇るうえ、従来のニヴァクロン同様、緩急針を載せられるとあって次世代のヒゲゼンマイとしてかなり有望視できるものだ。スウォッチでは2019年に「Flymagic」に採用し限定販売したが、数年内にオーデマ ピゲにも採用されるだろう。

採用の尖兵となるムーブメントは磁力の影響を受けやすい薄型ムーブメントと考えるのが自然で、クロノス編集長の広田氏の予想によればそれはCal.2120になるだろうとのことだ。

ロイヤルオークシリーズでニヴァクロンが搭載されるとしたら、オリジナルモデルに近い15202ST“ジャンボ”になると僕は予想する。何よりもケースが薄型であり、磁気への対策が急務であるからだ。このモデルには昨年、サーモンダイヤルの美しいレパートリーが追加されている。

将来、メーカーメンテナンスの際にCal.3120もニヴァクロンヒゲゼンマイに交換されることが期待できないわけではないが、現実的には帯磁したら消磁するような運用をしていくしかない。僕は自前で消磁器が欲しいのだが、まだまだ高価だ。

ムーブメントと精度

Cal.3120の携帯精度は僕の所有する個体では極めて良好。日差+2秒で推移し、デイトも12時2〜3分でパシっと切り替わる。ローターの巻き上げの音も試着時ほど気になるものでもなく、リューズの巻き心地にも好感が持てる。何よりも、ハック(秒針停止)機能があることはユーザーサイドとしては非常に嬉しい。

一般に高級機と呼ばれるムーブメントにはハック機能がないのが当たり前と刷り込まれてきた(僕の場合は、パッテクフィリップを初めて手にしたとき、Cal.215PSのスモールセコンドが時刻合わせの最中も周回し続けたことは衝撃的なことだった)。

Cal.2121と同じスイッチングロッカー式の自動巻機構はロレックスなどに代表されるリバーサー式に比較し、歯車の摩耗が少ないとされるが、不動作角が大きくローターの巻上げ効率が低い欠点もある。巻上げ効率の不足を比重の重いローターで補う22Kゴールドを採用できるのは超高級メーカーの証でもある。

Audemars Piguet 15450ST-3

しかしながら、摩耗に強い加工を施した切替車の採用などでリバーサー方式における摩耗という課題も解決された現代にあって、オーデマ ピゲも2019年に登場したCal.4302ではリバーサー方式に宗旨替えしてしまった。22Kローターを中抜き加工したのも、もはや重いローターを必要としなくなったからでもある。

巻上げ効率の低さについては、購入後1週間で停止したことから実感している。仕事から帰宅して2時間程度で停止していたことから、デスクワークでは殆ど巻き上がっていないようだ。その日身に付けている時計が止まってしまうということは経験上なかったことなので、かなり狼狽した。家で外している間はワインディングマシーンに格納しておいた方が良いかもしれない。

一旦巻き上がり切ってしまえば、60時間のパワーリザーブがあるのですぐにこと切れることはないだろう。オーナーにはアクティブさが要求される。

悩ましいのは、今後のメンテナンスだ。雲上ブランドであるオーデマ ピゲの3針自動巻のオーバーホール基本料金は10万円超だ。研磨はオプション料金となる。とりわけ巨大なゴムパッキン兼インナーケースは常時外気に晒される部分があるだけに定期的な交換が必須だろう。

オーデマ・ピゲ 正規OH料金(自動巻3針)
オーバーホール(基本) 103,000円(税別)
部分修理(防水パッキン交換) 44,000円(税別)
外装研磨(上記のいずれかと併用条件) 38,000円(税別)

ただし、この部分は部分修理で対応可能で、その場合はオーバーホール基本料金の半分ほどのコストで済む。僕は部品交換の必要のない定期オーバーホールは社外の修理店に依頼しようと考えている。

15450ST

メーカー保証はオーナー登録によって3年間延長となるので、僕の個体は2025年1月までは安心して使用することができそうだ。奇しくも2020年1月末にオープンした名古屋市中区の名古屋ブティックが窓口になるので、メンテナンス体制には安心感を覚える。

競合モデル

まずサイズ感といい、現行のデイトジャスト36/Ref.126200はライバルとして筆頭に挙げたい。ブレスレットはジュビリーを選択すると良いだろう。ロイヤルオーク 37mmとデイトジャスト36はその丸みを帯びた雰囲気といい、よく似た時計だ。決定的に異なるのがブレスレットだ。ロレックスはこの10年でブレスレットの耐久性を格段に向上させた結果、

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ブレスレットはとてつもなく重くなってしまった。デイトジャスト36のケースサイズでは、かなり微妙なバランス感にすら感じる。ロイヤルオークのブレスレットはその点、しなやかさに重点が置かれているので違和感は全くない。ダイヤルはロイヤルオークで入手困難なサンレイブルーだと理想的だが、ロレックスは交換を受け付けて

くれるので、購入時のダイヤルカラーにそれほどこだらなくても良いだろう。デイトジャストの直径36mmケースは長らくラインアップに存在してきたが、クロナジーエスケープメントなど最新技術を搭載するCal.3235を載せたモデルは2018年に登場した。

僕個人の経験ではCal3235は使用後1年以内で部品摩耗により修理送りとなってしまったので、もう少し熟成を待ちたいところ。長年信頼のあるCal.3135搭載機をブティックで探すのもアリだが、玉数は徐々に減ってきているので検討するなら早いほうが良い。いずれにしても、華奢な腕への収まりの良さと素性の確かさ、ロイヤルオークの3分の1程度で入手難易度も高くない本モデルは僕自身、追加購入したいほど。

次に挙げたいのは、ロイヤルオークのオリジナルデザインを手掛けたジェラルド・ジェンタが(無節操にも)パテック・フィリップのためにデザインしたノーチラスの現行モデルRef.5711/1Aだ。

このモデルを含む多くの自動巻モデルは長らく時刻合わせの際、リューズを引くと秒針を停止するハック機能のないCal.324を採用してきたが、2019年に突如このハック機能付きのCal.26-330SCに置き替えた。これで、ロイヤルオーク、ノーチラス共に現行機はハック機能を搭載していることになる。ノーチラスのロイヤルオークに対するアドバンテージは120m防水であること、シリコンヒゲゼンマイSpiromax®による耐磁性の確保である。逆にネックとなるのはその価格で、3,575,000円(税込)の正規販売価格だけみてもとても手が出ないが、二次流通市場で倍以上の価格で取引されているという事実である。今後、26-330SC搭載機と旧世代モデルで価格差が生じると思われるが、価格面でのアドバンテージは圧倒的にロイヤルオークにある。装着性は直径40mmはやや大きいものの、厚みが8.3mmに抑えられているので、細腕への収まりも良好だろう。

パテック フィリップ 5711/1A
Nautilus Ref,5711/1A

ジェラルド・ジェンタのDNAを(買収によって無理やり)受け継いだブルガリ オクト フィニッシモもロイヤルオークのライバルとして相応しい。とりわけ推したいのは、2020年初めに登場したサテンとポリッシュを巧みに使い分けたスチールモデルである。これまで素材を変えながらもマットな質感を維持してきたオクト フィニッシモだが、ここにきてヘアライン仕上げを採用したのは、進化のあり方として正しい。

ブルガリ オクト フィニッシモ
最新のオクト フィニッシモは100m防水を獲得した

そして、そのケースの薄さのために犠牲となった防水性能30mは、本モデルでは、ねじ込み式リューズ、パッキンなどの封入により100mにまで向上した。ケースはやや厚みが増したものの、5.25mmの薄さはやはり圧巻である。プラチナ製のマイクロローターを備えるムーブメントBVL138の審美性も非常に高い。両持ちブリッジが支えるテンプ周りがフリースプラングでないことと、ハック機能を搭載していないのが惜しいが、この辺りのアップデートもひょっとしたらと期待している。

オクト フィニッシモは先般GMTクロノグラフモデルが登場したが、ロイヤルオーク クロノグラフ38mmと驚くほど佇まいが似ていた。今後ブルガリの時計部門を支えるモデルになるだろう。

そして、忘れてはならないのがモーリス・ラクロアのAikon Automaticだ。まるで、コピーかと目を疑うほどロイヤルオークとよく似たモデルだが、よく見ると、デザインには独自性がみられる。なによりも初代ロイヤルオークと同じ39mmのケースサイズが用意されているので、これにサンブラッシュ仕上げされたクル・ド・パリのダイヤルと組み合わせたら最高だ。最も手軽にラグジュアリースポーツが味わえるモデルといえる。

僕なら、これをトラベルジュエリー(影武者)的に海外で身に着けるのに追加したいと本気で考えている。あるいは、ロイヤルオークがメンテナンスで手元から離れた時に代替で使用することも想定できる。Aikonは42mmを主流に、39mmをボーイズ、35mmをレディースで展開している。ここに37mmのクォーツが追加されたら、僕が購入を躊躇する理由はなくなる。このモデルの登場が示唆するのは、もはやロイヤルオークは時計デザインにおけるパブリック・ドメインにまで昇華したのではないかということだ。

サブマリーナを手本とする他社製のダイバーズウォッチが無数にあるが、それと本質的に近いと僕は感じている。

まとめ

Audemars Piguet 15450ST-4

ロイヤルオークはバーサタイルでありながら、フィッティングにおいてシンデレラに登場するガラスの靴のようなシビアさを要求する特異な時計で、オーナーは繊細な時計を扱う上での心得も要求される。それでも、この時計が1本あればどこに行っても恥ずかしくないと胸を張って言える。社交の場を横断できる腕時計というのは実に稀有な存在なのだ。この時計さえあれば、1本ですべてのシチュエーションをカバーできると言っていい。

 

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