T.ピケティ著『21世紀の資本』を繰り返し読んで未だにわからない点
2015年初頭にブーム
今年初頭に話題になって、僕も飛びついたピケティの「21世紀の資本」。とても話題になったはずなんだけど、今では誰も話題にしなくなり、ちょっと寂しい気もします。
この本で取り上げられている統計データが恣意的だという指摘がなされ、ラインハート&ロゴフ著「国家は破綻する(副題:金融危機の800年)」と同じ信頼性の低い論書というレッテルが貼られてしまったことが大きいのかもしれません。我が国は特にSTAP細胞の狂騒があったので、殊更に。
僕はもうこの類の論文は仮説レベルに留めておいて、証明は他の研究者に外注でいいんじゃないかと思います。ポアンカレ予想みたいな定理を主張するポアンカレと時代を経て証明するペレルマンみたいな在り方が経済学、ひいては社会科学に許されてもいいような気がするのですがダメ?検証力と着想力を同じ程度持ち合わせている学者がそう多いはずはありません。恣意的なのはいけませんが、恣意性の証明はそれこそ困難なのは皆さまご承知の通りで。
話は逸れますが、「国家は破綻する」は非常に示唆に富む内容だったと思います。とりわけ日本がかつての英国と同じく銀行を救済する代わりに国債の購入させるファイナンシャル・リプレッションを今後数十年に渡って継続するだろうという予言には頷けるものがありました。データの取り扱いの重過失で捨て去るには惜しい良書だったと思うのです。
冒頭から数学モデルを否定するピケティ
話は戻ってピケティのこの論文、何度読んでも面白いですよ。冒頭から数学モデルを否定しまくります。だから経済学書にありがちな超難解な数式は皆無です。基礎的な動学モデルとr>gという不等式だけです。おまけにバルザックの「ゴリオ爺さん」がピケティの解説付きで楽しめます。彼にとって経済学は政治学というパラメータによって大きく歪曲される存在であるようです。したがって、数学モデルでは表現できないという理屈です。なるほど、政治経済って言いますもんね。両者は不可分なんだ。
本書のざっくりとした概要は次の通り。
不等式 r > g が表現するのは 、資本で得られる収益率rが労働によって得られる成長率gを上回ったとき資本の分配格差が拡大する。通常成熟した資本主義国家においては前者は4〜5%、前者は1〜1.5%を超えない水準で推移することから、分配格差は必然的に発生する。格差が是正されるには過去においては2度の世界大戦、未来においては資本課税だが、課税の実現性には懐疑的だ。こんなところでしょうか?
疑問点
「格差」という単語に共鳴したのと、数学モデルのない読みやすさに釣られてヒットした本書ですが、僕が何度も読んでわからない点があります。まず、下図をご覧ください。
この図は米国と欧州での上位1%と上位10%が占める国富の割合で2010年における米国のトップ1%は国富の3割を占めるとあります。
これって単純に1%のセレブとかスーパー経営者という「個人」層が国富の3割を独占していると解釈して本当にいいんですかね?
あるいは、この1%の中に大学や年金基金を運用する財団等は含まれていないのでしょうか?これが混同されていると、我々が抱きがちな敵愾心の矛先が随分変わってくるように思えるのです。逆に法人や財団などの組織を除いた個人の上位10%だけで国富の70%を独占できるとも到底思えないわけで、そうなると僕らはとんでもなく巨大なモノを相手に比較をしていることになります。この辺りのモノサシの説明がどこにもない(どこかにある?)ので、僕より読み込んでいる、もしくはこの種の統計データを読む時に知っているべき前提知識をお持ちの方に教えを乞いたいと思っています。
統計は楽しい
T.ピケティの統計情報はWEB上に公開されていて、これ眺めるだけでも楽しいです。
参照:Thomas Piketty Capital in the 21st century
もう少しピケティで盛り上がっていたいです。
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