スポーツウオッチの超新星 ランゲ&ゾーネ オデュッセウス
A.ランゲ&ゾーネ(A.Lange & Söhne)から突然発表された「Odysseus(オデュッセウス)」は同社初のステンレススチール製スポーツウォッチです。
オデュッセウスはホメロスの叙事詩「オデッセイア」の主人公で、古代ギリシアの英雄として描かれています。英語圏ではUlyssesと表記するので否が応でもUlysse Nardin(ユリス ナルダン)を連想するのは時計オタクの悲しい性ですが、そのユリス ナルダンが得意とするスポーツウォッチをゲルマン的クラシックウォッチメーカーのランゲ&ゾーネがリリースしたのは、実に奇妙な偶然です。
ステンレススチール製の時計という意味では、かつてランゲ&ゾーネはメンテナンスサービスで時計を預けている顧客のために貸与用にスチール製のモデルを用意していた(これはセカンドマーケットで莫大な価値を持つ)のですが、製品版としては初となります。
外径は40.5mm、厚み11.1mmとラグジュアリースポーツウォッチが備えるべき「薄さ」がないので、これはロイヤルオーク、ノーチラスに代表されるラグジュアリースポーツウォッチの系譜ではなく、ロレックスなどのスポーツウォッチに分類されるべき時計でしょう。スポーツウォッチらしく、120mの防水性能を備えていることが何よりもその志向を表しています。
僕が高く評価しているのはブレスレット機構の出来の良さです。5連ブレスレットについては好みが分かれるポイントだと思いますが、リンクそのものの厚みが薄いことは装着製の良さに直結する部分です。また、最近のカルティエやIWCなどのリシュモングループの高級時計に共通しますが、リンクの取り外しが工具を用いずにリンクの裏側にあるプッシュボタンで解除できるのは、非常にユーザビリティが高いところ。
そして、7mmのアジャスト機能の付いたバックルをここまで薄くまとめたのは実に凄いことだと思います。このアジャスト機構の先駆者はロレックスのグライドロック機構ですが、バックルの厚みはどうしても嵩んでしまうのがデメリット。この厚みの問題を克服した功績は大きいですね。
個人的には、ブレスレットを革ベルトやNATOストラップに換装できる形状は嬉しいポイントです。ただし、ラグは非常に短く作られているので、バネ棒とケースの隙間にアソビがどの程度あるのかは吟味しなければなりません。
ケースはいわゆる3ピース構造ですが、リューズ側の意匠が凝ってますね。パテック フィリップ ノーチラスの「耳」のように見えなくもありませんが、スペースオデッセイ(2001年宇宙の旅)を想像してしまいます。40.5mmの外径は確かに大きいのですが、左右に配されたデイトウィンドーと6時位置の大きなスモールセコンドのおかげで間延びした印象はありません。
蓄光塗料が十分に盛られた針とアプライドインデックスは実にスポーティな印象を演出していますし、青地のインデックスの中心円は梨地状にプレスされていて、その陰翳が立体感を見事に表現しています。
オデュッセウスのために新開発されたCal.L155.1 DATOMATICは28,800Vphのハイビート(これまでのランゲと比較して)な自動巻機構で、スワンネック型緩急針に見えるテンプ周りは、実はツインバランスブリッジのフリースプラングという耐衝撃性が考慮された設計となっています。
ジャーマンシルバーの3/4プレートなどグラスヒュッテの様式はそのままに、スポーツウォッチに求められる要件に見事に融和しています。
こうしてオデュッセウスの完成度の高さを見ると、構想はかなり前から温められていたのでしょう。
なぜ、ランゲ&ゾーネがこの種の時計をリリースする必要があったのでしょう?
その答えは、地球温暖化が肌で実感できるようになってきたからではないでしょうか?2019年はフランス パリで最高気温が42.6℃まで上昇し、過去最高記録(1947年)を更新するなど欧州の夏も猛暑となることが常態化しています。
こういう気候の元では、革ベルトのクラシックな時計は避けられます。アジア圏で金属ブレスレットの時計が主流なのは、気候が温暖な地域が多いからですよね。
だから、パテック フィリップのノーチラス/アクアノート、オーデマ・ピゲのロイヤルオークの後追いとは質的に異なると僕は考えています。
そんなオデュッセウスの日本国内の販売価格は310万円(税抜)と誰もが飛びつくようなプライスタグではありません。実勢価格は250万円くらいで、比較的安定的に入手できるのではないかと踏んでいます。
A.ランゲ&ゾーネ オデュッセウス Ref.363.179は2019年11月よりデリバリーが開始されます。
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