K.Iwahashiが語るラグジュアリー論







復刻キャリバー321搭載 第二弾 スピードマスター ムーンウォッチ “エド・ホワイト” スチールはデイトナを超えるか?

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'79年生まれ。1浪2留の流浪期を経て'05年に早稲田大学商学部卒業。 現在は金融業界で会社員として勤務。英文翻訳が得意。 ラグジュアリー全般に関する考察と海外発の腕時計情報をいち早くお届けします。

2019年、僕ら時計愛好家が最も驚いたのは、オメガがCal.321を復活させたこと。それまでのヴィンテージライクな時計をリリースする手法は、あくまで外装にとどまっていて、ムーブメントは現行型を使うケースがほとんどだったと思う。

ところが考えてみると、時計の外装のデザインというのはムーブメントの大きさや厚みに必然的に制約を受けるのであって、どうしても現行型のムーブメントに外装を合わせようとすると無理が祟ってしまうように感じるもの。

それに、我々愛好家もヴィンテージウォッチの深みにハマっている人ほどオリジナルキャリバーに拘りがあるわけで、「ガワだけヴィンテージ」をシニカルに見つめがちだ。。

オメガが2017年にリリースした1957トリロジーも、リリース当初こそ二次流通市場でプレミア価格で取引されていたが、次第に価格が落ちてしまったのは、ムーブメントに現行キャリバーを採用したのが、ピュアなヴィンテージマニアまで取り込めなかったことに原因があるのだろう。

オメガはその点に気付いたのか昨年、’60年代に採用していたスピードマスター プロフェッショナルのオリジナルキャリバー321を復活させた。搭載したケースはプラチナ製の42mmと、まずはプレミアムモデルに。極めてクラシックな構造を持つクロノグラフムーブメントはオリジナルのパワーリザーブ44時間から55時間に拡張されており、

caliber.321
キャリバー321

こういう話がある。90年代の音楽シーンでヴィンテージシンセサイザーが再評価され、ヴィンテージ市場も活況を呈した。80年代後半にアナログ回路からデジタル回路に移行したメーカー各社は、デジタル音源(主にデジタル録音された波形)でアナログシンセサイザーを再現しようとしたが、アナログ回路から出力される「音の太さ」はデジタルで再現することが大変難しく、各社は10年ほど苦戦を強いられていた。ところが、2000年代に入り、かつてアナログセンセサイザーを製造していた会社が再興され、アナログ回路をそのまま再現したモデルを続々とリリースした。それによって高騰していたヴィンテージ市場は急激に平静を取り戻した。

高級時計もヴィンテージシンセサイザーが辿った道を踏襲しているように見えるのは穿った見方だろうか。

そして、2020年。ついにステンレススチールのコモンモデルにもCal.321が採用されることになった。それも、嬉しいことに42mmの”月に行った”4代目ではなく、エド・ホワイトが1963年にアメリカ人として初の宇宙遊泳を遂行した際に身に着けていた39.7mmの3代目105.003ST通称”エド・ホワイト”の復刻版に採用されたこと。42mmよりも39.7mmの方が、俄然装着性に優れるだろう。

150.003ST
image by MONOCHROME WATCHES

エド・ホワイトが宇宙遊泳(EVA)を行なったのは、1965年6月3日 ジェミニⅣ号の活動の一環での出来事。彼はその2年後の1967年1月にアポロ1号の訓練中の火災で還らぬ人となった。享年36歳。ちなみに”人類初”の宇宙遊泳を達成したのは、ソ連のヴォスフォート2号に搭乗したアレクセイ・レオーノフで、1965年3月18日とエド・ホワイトに僅か3ヶ月足らず先行した。当時のアメリカのソ連が宇宙開発競争でしのぎを削っていた様子が窺える。

宇宙計画の偉業のインパクトの差でどうしても、そこに帯同した42mmのST105.012(4代目)が注目されがちだし、オメガもそれに沿ってプロモートしてきたわけだが、僕の感性には105.003ST(3代目)がやはりしっくりくる。

ツイストされていないストレートなラグ、アプライドされたΩマーク、バー状のブレスレット、そしてリューズガードのない40mm未満のケースサイズは僕自身が身につけた時の姿を容易に想像できるから。

ところで、この39.7mmは現行型のデイトナ 116500LNとサイズがほぼ拮抗する。このモノブロックセラクロムベゼルを備えた時計の直径は公称40mmとされているが、実測は40mmを僅かに切っている。この点で(厚みを別とすれば)、ほぼ同じサイズと言っていい。

類似性はこれにとどまらない。セラミック[ZrO2]製タキメーターベゼルはモノブロック(無垢材)ではないものの、現行デイトナと同じく、傷つきやすいベゼルの耐傷性を確保している。ホワイトエナメルで描かれた目盛りは「ドット・オーバー90」という時速90km以上のアラビア数字の上方にドットを配し、かつてのヴィンテージ スピーディの意匠をそのまま受け継いでいる。

次に価格。このスピードマスターの日本国内定価は151万円(税抜)。2020年1月の価格改定により値上げとなったデイトナ Ref.116500Lが126.1万円(税抜)であることを考えると、差はあるものの、価格レンジとしては同一のカテゴリに含まれるだろう(100〜150万円)。もっとも、実勢価格となるとどうだろう。僕の予想では、登場1年後には現行デイトナの半額程度で入手可能になるのではないだろうか?しかし、以前のようにデイトナオーナーが、スピードマスターオーナーにマウントを取るような醜い姿は見られなくなるのではないだろうか(誰だよ)。

防水性に関しては50mとデイトナの100mには大きく”水”を開けられているものの、トランスパレントケースバックからムーブメントを鑑賞することができる利点と相殺できる程度の差だ(ちょっと強引なのは承知している)。

キャリバー321の年間生産数は2,000個と言われている。ムーブメントは専属担当者を付けて手作業で組み立てているからである。意外に思われる人も多いのだろうが、今やムーブメント製造からケーシングに至るまでオートメーションなのである。したがって、このモデルも年間2,000本のリリースが限界だろう。限定モデルや派生モデルが登場すれば、その分パイは減る。

しかし、ある程度の年数が経過すれば、比較的店頭で見られるモデルとなるのではないか?とにかく、オメガはファーストイヤーが入手しにくいと思う。しかし、辛抱強く待てば、デイトナのように店頭で出会えないモデルではないだろう。

基本情報
メーカー OMEGA
モデル/型番 SPEEDMASTER MOONWATCH 321 STAINLESS STEEL “ED WHITE”/Ref, 311.30.40.30.01.001
直径×厚さ 39.7mm×14mm
ケース素材 ステンレススチール/セラミック(ベゼル)
防水性能 50m
価格/発売時期 1,510,000円(税抜)/2020年上期
ムーブメント情報
キャリバーNo. Cal.321
巻上方式 手巻
振動数 21,600
調速機構 緩急針 ※ヒゲゼンマイ はブレゲ巻き上げ式
パワーリザーブ 55時間

Hodinkee Japanの関口編集長による紹介記事はこちら↓

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