K.Iwahashiが語るラグジュアリー論







独立時計師・浅岡肇さんがTiCTACとのコラボで生み出した入門機『クロノトウキョウ』の凄み

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'79年生まれ。1浪2留の流浪期を経て'05年に早稲田大学商学部卒業。 現在は金融業界で会社員として勤務。英文翻訳・映像翻訳の実績多数。 ラグジュアリー全般に関する考察と海外発の腕時計情報をいち早くお届けします。

2019年11月19日に参加したHodinkee Japan ローンチパーティで、周囲の招待客にちょっとしたざわめきが沸いた。

あの浅岡肇さんがいるというのだ。

現在独立時計師として活躍されている浅岡さんの前職はプロダクトデザイナー。独学で時計製作を習得して2009年に日本初のトゥールビヨン機構を搭載した腕時計を発表。以降『ツナミ(TSUNAMI)』、『クロノグラフ(CHRONOGRAPH)』などハイエンドな作品を世に送り出している。2015年にアカデミー独立時計師協会(AHCI)の正会員として昇格されている。特徴的なのは、16mmの大きなテンワに一対のミーンタイムスクリュー(偏心錘)が取り付けられたムーブメント。そう、浅岡肇さんの時計のムーブメントは国産で唯一フリースプラングを採用しているのだ。

CHRONO TOKYO CT002V -8
浅岡肇(1965〜)

そんな浅岡肇さんの時計はベーシックな3針で300万円、クロノグラフで1,200万円とおいそれと手を出せる価格ではない。

それに加え、独立時計師とは自身が製作した時計を自分で身に着けることすらままならないのだ。

AHCI(独立時計師の団体)会員の中に、いつもTUDORの時計をしているイギリス人の独立時計師がいますが(世界で最も実力のある一人です)、その理由を聞けば、同じく納品用を優先するので、自分用を作る余裕が無いからというものでした。 浅岡肇

それもあって、自らも日常使いができる時計を念頭に、広く一般の人々にも浅岡肇の時計を身近に感じてもらうためにTiCTACと協働して生み出されたのが、CHRONO TOKYO(クロノトーキョー)シリーズだ。その値段は何と18万円(税抜)〜と大変リーズナブル。

CHRONO TOKYO CT002V -9

2018年10月にグレー/シャンパンダイヤルが各50本TiCTACのオンラインストアに登場するや、瞬く間に完売してしまった。2019年6月にバニラベージュ/ネイビーブルーが各100本販売された時も同様だ。プロダクトデザイナー時代にTiCTACがクライアントだった縁がコラボレーションへと結実したわけだから、いかに信頼が厚かったかが窺えよう。

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僕はヴィンテージウォッチのテイストを感じられるバニラベージュを選択した。浅岡肇さんのデザインはモダンで、「直線的なマーク・ニューソン」というのが僕の印象。モダンに寄りすぎないちょうど良い塩梅のダイヤルカラーがこのバニラベージュ(CT002V)を選んだ理由だ。もっとも、僕は「バスに乗り遅れた」側の人間なので、未開封の個体をプレミア価格で入手した。つまり、市場はこの時計を「リーズナブル過ぎる」と捉えている証左だ。


浅岡さんはTwitterでの発信にも熱心で、とりわけ腕時計の写真撮影に非常に長けている。クロノトウキョウの場合、どうしてもシルバーの針が暗転してしまうか飛んでしまうのだが、浅岡さんの写真では立体感が忠実に表現されている。

外装に非常に凝っていて、まずダイヤルがボンベダイヤルという湾曲した文字盤を採用している。そこに直線的なアプライドインデックスをカーブさせてアタッチさせているのは、非常に精緻な技術が必要なことが理解できる。さらにはケースも文字盤も、針もムーブメントも全て外注で製造しているというのは驚きだ。

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ムーブメントはミヨタ(シチズン)90S5を搭載する。パブリックドメイン(特許フリー)となったETA2824よりは設計が近代的で、どこの時計屋で修理することができるというのが採用の理由だ。確かに、独立時計師の時計は、その仕事を継承する者がいなければ修理の行き場がない。ましてや、不世出の天才の作品となれば尚更だ。時計の部品には交換となる消耗部品も多いのだ。それを嫌というほど自覚されているからこその選択だろう。

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90S5の精度は文句ないところ。磁気帯びしやすいのと、シャカシャカとしたローターの回転音が大きいこと、ローターの重心が高めなのか、時計本体が揺さぶられる感覚が若干ある。リューズの巻き心地も決して心地よいものではない。ムーブメント愛好家から見れば物足りなさもあるだろうが、全体としては合理的な選択だったといえる。

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腕に巻いた感覚は非常に良好。37mmの外径が、いかに日本人に適しているかを再確認した。独立時計師としての作品TSUNAMIも、外径は37mmだ。このサイズ感にこだわりを持っていることが窺える。かつてザ・シチズンが日本人の腕に馴染むように37mmのサイズを崩していなかったものの、グローバル化によって徐々にサイズを増しているのを見るとクロノトウキョウは実に稀有な存在だ。

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ケースの素材は316Lスチールで、切削ではなくプレスで成形している。つまり、金型を製作する必要があるので量産しなければ資本回収できないはずだ。だから、今後も小ロットながら作り続けてくれることを僕は期待している。完璧にポリッシュされた鏡面部分は歪みが少ない。クラシックな雲上時計と並べても遜色がなく、ここにクロノトウキョウの凄みを感じる。

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完全にコストとして割り切られたのは、カーフベルトといえる。ただし、純正の薄手の仕立てはオーダーで別作する際に大いに参考になる作りの良さだ。ポリッシュされた尾錠には手を抜いた感が全くないのも良い。

それに、このカーフベルトは例えば葬儀に参列する際には目立たないのでよい。実際に、僕も近日葬儀のためにベルトを純正に戻したところだ。ちなみに、普段用にはHODINKEEで購入したヴィンテージイタリアンレザーという厚手のカーフベルトに付け替えて楽しんでいる。ラグ幅が20mmという、汎用度の高いサイズなのでこのケースサイズにありがちな19mmを採用しなかったところは実に考えられている。

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徹底的にポリッシュされたケースの裏蓋は、一転してサテン仕上げが施されている。秀逸なのは、スクリューバック式でありながら裏蓋の刻印の向きが揃っていることだ。これを量産で実現しているメーカーにOMEGAのNAIAD LOCK(ナイアードロック)があるが、どのように実装しているかは不明だ。


クロノトウキョウのために専用オープナーまで製作するほどの徹底ぶり。メンテナンスはTiCTAC経由で依頼するのが確かだろう。

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日頃はデイトナを身に着けることが多いのだが、ちょっとしたフォーマルな場に活躍することが多いクロノトウキョウ。実は時計愛好家が集まる場にも打ってつけのソーシャルアイテムであることは間違いない。僕の知る限り、クロノトウキョウを入手している人たちは入門者というよりも、パテック・フィリップやランゲ&ゾーネ等のオーナーも多く含まれている。

時計好きの間で誰かにマウントすることなく、時計好きであることを表現するのにこれほど優れた時計はないのではないだろうか。

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そんなクロノトウキョウの最新版は2019年11月に登場した『クロノトウキョウ クラシック』である。スティールグレー(CT003Q)とブロンズ(CT003P)はコストをかけたツートンダイヤルに加え、ストラップ素材もクロコダイルに換装され、価格は従来品よりも高価となった。TiCTACパルコ渋谷店で店頭販売されていたが、一部ロットが2020年1月22日午前11時よりオンライン販売される。この機会にコレクションに加えてみてはどうだろうか。

 

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