時計業界の怪人 ジャン-クロード・ビバー氏のインタビューと屈折した時計コレクション
2014年7月のHODINKEEのアーカイブから、Jean-Claud Biver(ジャン-クロウド ビバー)氏のインタビューをお届けします。
天才独立時計師でもない、ビジネスマンであるビバー氏が時計業界に残した影響というのは測り知れないものがあるのですが、底抜けの明るさに、異常なほどの情熱、そして抜け目の無さが混在した、まさに「怪人」というべきキャラクターは時計業界に身を置かない人も注目に値すると思います。
インタビュー当時ビバー氏はHUBLOTのCEOでしたが、このインタビューの後の2014年12月にTAG Heuer(タグ・ホイヤー)のCEOに就任します。
彼の英語はかなりぎこちないのですが(スイス人なので当たり前ですが)、余りあるパワーとパッションで非常にクリアに意図するところが伝わってきます。英語が不得意な日本人は参考にすると良い思います。ビジネスマンこそこのインタビューを聞いて欲しいですね。
1974-79にAudemars Piguet(オーデマ・ピゲ)でセールスマネージャとして活躍していた時期というのは、まさにオーデマ・ピゲがROYAL OAK(ロイヤルオーク)を発表した時期と重なります。
Hodinkee主宰のBen Clymer氏にHUBLOTのビックバンがオーデマ・ピゲのロイヤルオークに似ていると言われたビバー氏は「100%似ていると思う。だから何だ?俺のせいじゃないよ。」「じゃ誰のせい?」と切り返されると次のようなエピソードを紹介しました。
HUBLOTが80年代にポルトという時計を展開する際、如何にロイヤルオークと差別化させるか腐心したそうです。ロイヤルオークの八角形ケースに対しラウンドケースを採用し、ステンレスベルトに対しラバーベルトを採用し、機械式ムーブメントに対しクォーツムーブメントを採用しました。
2004年にビバー氏がビックバンを開発する中で、ムーブメントを機械式に変えるなどロイヤルオークとの共通点が増える中、ロイヤルオーク オフショア(クロノグラフ)が今度はポルトのラバーベルトを採用し始め、結果としてロイヤルオークとビッグバンは互いに歩み寄る形で似てしまったというかなり無理のある言い訳をしています。この辺りの抜け目のなさが彼の卓越したビジネスセンスを支えているのでしょうね。
面白いのはオーデマ・ピゲ時代にパテックフィリップがリリースしたNautilus(ノーチラス)を見て、「何だこれは!ただのコピーじゃないか」と思ったそうです。
BLAINPAIN(ブランパン)は後に彼を有名にしたブランドですが、1981年に22,000CHFで名前を購入したそうです。当時の日本円で200万円ほどでしょうか。そして、クォーツ全盛にあって、彼が最初に手がけたのが機械式ムーブメントを積んだムーンフェイズ。後の機械式時計の再興を考えると驚くべき先見の明ですね。
ブランパンで1986年にミニッツ・リピーターを納品するときは顧客の元に赴き、昼食を共にしていたそうです。それくらいその時代はどのメーカーもクォーツで勝負しており、機械式時計を購入するのは「Connoisseur(目利き)」だけだったのです。
ビバー氏のコレクションもこれまた屈折していて、オーデマ・ピゲ時代の「Kind of obsession」でもあるPATEK PHILIPPE(パテック・フィリップ)を中心に主にCHRISTIE’S(クリスティーズ)などのオークションで入手。しかも、ラグのポリッシュやセットダイヤのクリーニングの形跡のある個体は避けるそうです(「Untouched」という単語が4度飛び出します)。
2009年にクリスティーズで入手したRef.3448のプラチナケースはMr.ハッグマン(?)という人が手がけているのですが、その人はまさにブランパンでミニッツリピーターのケースを担当した当の本人であったこおtから購入を決めたということです(ビバー氏机をバンっと叩く)。
その他紹介されたパテックフィリップの時計は次の通り。これらの多くはご子息(ピエールさん)に相続する目的もあるのだそう。
- Ref.3670A
- Ref.3700(Nautilus)
- Ref.5106R(16本限定)
- Ref.1518(9本限定)
- Ref.530
- Ref.1579(3本限定のプラチナケースとローズゴールドの2本)
- Ref.2449
- Ref.1436
- クロゾワネ 両面エナメル仕上げの懐中時計
バーゼルワールドでパテックを身に着けていたことから、ビバー氏がパテックフィリップを買収するという憶測が飛んだというエピソードで僕は吹き出してしまいました。
ビバー氏の今後の活躍にも目が離せませんね。
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