時計投機家とダフ屋がもたらす害悪と人気モデルが店頭から消えたワケ

aBlogToWatchのAriel Adams氏による時計投機に関する論考が非常に勉強になったので紹介します。

僕自身、2013年に南青山のパテックフィリップ販売店にスポーツモデルであるアクアノートの入荷待ちリストに加わって5年が過ぎようとしていますが、まったく音沙汰がありません。

それもそのはず。ラグジュアリーマーケットに身を置く人なら誰しも理解できることなのですが、人気の定番モデルは、メーカーによって意図的に枯渇するように調整されていて、需要が供給を大幅に上回るように仕組まれているのです。patek-philippe-aquanaut-5711-rose-gold

正規代理店の、この列に割り込むにはどうしたら良いか?それは、人気モデル以外の時計を何本も購入して、お店にロイヤリティ(忠誠心)を示すことです。したがって、僕のように正規代理店に一見で赴いてウェティングリストに加わったところで、永久に順番は回ってこないのです。これは自分で言うのも何ですが、アホのやることです。

実はそういう枯渇戦略を取れるメーカーというのは非常に限られていて、短期的な利益追及を投資家から要求されるような大きな資本グループ傘下の時計メーカーではまず無理で、ロレックスやパテックフィリップ、オーデマ・ピゲなどの独立系くらいなのです。

なぜロレックスやパテックのスポーツモデルの入手が正規代理店では困難なのか?

その3社だけみても、ロレックスならデイトナ、GMTマスターⅡ”ペプシ”ベゼル、サブマリーナの3モデル、パテックフィリップならアクアノート、ノーチラスの3針ステンレスの2モデル、オーデマピゲはロイヤルオークの3針ステンレス1モデルと、そのメーカーのモデルなら何でも売れるというわけではないのです。rolex-gmt-master-2-pepsi

正規代理店で定価で購入できないとなると、市場原理の徒花として登場するのが投機家(Speculator)とダフ屋(Scalpers)です。両者は完全に分離した存在ではなく、両者を兼ねることが多いかもしれません。

彼らはこれら人気モデルの時計をリテールプライス(定価)の数倍で売り抜けようとします。ロレックスの人気ステンレススポーツモデルが、同じシリーズの金無垢より高く売られているのは、こういうカラクリなのです。

この数年で蔓延っているアンフェアな事象として、正規代理店がこうしたダフ屋と結託して、人気モデルが入荷したら店頭に並べることなく横流ししていることです。正規代理店といっても、世界中に存在するわけですからメーカーの届かないこともあるでしょう。

ポルシェに学ぶ二次流通戦略

porsche

image from HODINKEE

市場への供給を制限して、価値を保持する戦略は自動車ではポルシェジャパンが採用しています。それでも、定価を上回る価格で出回らないのは、二次流通(中古市場)を同社がちゃんと押さえているからです。ポルシェの認定中古車というのは、その辺の中古車屋が販売する車と比べて整備もしっかりしていると消費者は考えますから、並行輸入業者が投機目的で参入する余地はないのです。

時計市場というのは、メーカーが中古市場に全く関与しない仕組みなので、二次流通業者がやりたい放題なのが現状です。もちろん、正規リテーラーが認定中古販売を手がける例として、河合暢雄社長が率いるNX ONEのRICHARD MILLE(リシャール・ミル)の中古販売がありますが、RMの購買層を考えると、コアマーケットへの浸透はまだまだ先のことと思えてなりません。

では、我々は現状にどう向き合えば良いのでしょうか?Ariel Adams氏は次の二つを提案します。

ひとつはメーカーの枯渇戦略に踊らされないことです。例えば僕は、正規販売店でロレックスのデイトジャスト41を購入しましたが、これは比較的手に入れやすいけれど、時計の価値としては非常に高いモデルです。男性に見られるコレクター気質というのは、時計業界では”いいカモ”にされるだけなのです。

ふたつ目に、暴利を貪ることを企む投機家やダフ屋を『人気モデルに手を出さない』手段で干上がらせることです。

僕の持論はメーカーもしくは正規代理店が二次流通を押さえることです。そして、国も関わるべきです。もはや価格が高騰しすぎて、一種のマネーロンダリングの手段となりうるこのコモディティ(商品)を車検証のような登録制にして資産課税すべきです。

僕自身は時計愛好家でもあるけれど、3割程度は投機家の気質もあるので、自省を込めて紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?とりわけ日本は1,000を超える二次流通業者(並行輸入業者)が存在すると言われ、彼らは定価の安い香港で安く時計を仕入れてきて日本で売ります。日本の定価よりも安く買えるとあって、私を含めて多くの愛好家が利用してきたのではないでしょうか?

そうした側面は否定できないけれど、こと人気モデルの流通に関しては、彼らは害悪でしかないことも、また事実です。

この清濁を見極めた上で、我々時計愛好家は自らの購買行動を見つめなおす必要がありそうですね。

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